小川洋子「妊娠カレンダー」
1994年2月 第1刷
2009年9月 第18刷
解説・松村栄子
191頁
「妊娠カレンダー」
赤ちゃんの誕生を待つ優しい母親と父親のほのぼのとした物語であろう
と思っていましたが全く違うものでした
姉が結婚し、義兄を含めた三人の暮らしが始まる
妹に言わせれば『つまらない男』の義兄
やがて姉は妊娠
悪阻が酷く一切の食べ物を受け付けない
台所や洗面所、浴室から発せられる匂いにも耐えられないという
悪阻が治まったら突然訪れた猛烈な食欲
どんどん太る姉を客観的に観察する妹
姉は、嵐の夜に、枇杷のシャーベットが食べたい、と言ってみたり
妹が一生懸命作ったグレープフルーツのジャムを出来上がる端から鍋から直接食べてしまったり
周囲のことなどお構いなし、我儘放題ですがトラブルが起きることはなく姉に素直に従う義兄と妹
アメリカ産のグレープフルーツには発がん性のある農薬が使われているという
わざとアメリカ産のグレープフルーツを買ってきて、心の中で姉の胎内の赤ん坊の染色体が破壊されることを想像しながらジャムを作り、それをむしゃむしゃ食べる姉を見つめる妹
怖いです
姉夫婦の間で、子供の将来や親になる喜びなどについての会話は一切無いのですが
姉も妹も義兄も生まれてくる子供を憎んでいるわけではないのです
ただ『子供』というものを新しい生命として受入れる用意が出来ていない、というより受入れる必要性を全く感じていないのです
あ、なんとなく理解出来るな、と思いました
妹は、おそらく健康に生まれたであろう子供に会いに産婦人科医院を訪れます
子供は三人の大人に囲まれてどんな人間に成長していくのでしょう
大学生になりひとり暮らしを始める従兄弟に昔自分が暮らしていた学生寮を紹介する
しかし、今ではすっかり寂れてしまい、寮の先生が独り住んでいるだけだった
寮の先生には両手とを片足がありません
それでも身の回りのことは何不自由なく出来るのですが長い間不自然な姿勢をとってきた為心臓に負担がかかっており最近はベッドで休んでいることが多いのです
苦しそうな息で、ある日突然寮から姿を消した数学科の男子学生について先生が語る件は、小川さんらしく、上手に理系の思考パターンを取り入れており、ミステリーっぽい独特の世界が広がっていきます
「夕暮れの給食室と雨のプール」
新しく引っ越した街で偶然出会った父親と子供
親子は学校の機械化された給食室を外から眺めるのが好きなのです
- 関連記事
-
- 小川洋子「やさしい訴え」
- 小川洋子「妊娠カレンダー」
- 小川洋子「夜明けの縁をさ迷う人々」