山本周五郎「赤ひげ診療譚」
新潮文庫
1964年10月 発行
2002年 8月 83刷改版
2017年 9月 105刷
解説・中田耕治
373頁
幕府の御番医という栄達の道を歩むべく長崎遊学から戻った保本登は、小石川養生所の“赤ひげ”と呼ばれる医長、新出去定に呼び出され、医員見習い勤務を命ぜられます
貧しく蒙昧な最下層の男女の中に埋もれる現実への幻滅から、登は尽く赤ひげに反抗しますが、その一見乱暴な言動の底に脈打つ強靭な精神に次第に惹かれていきます
婚約者であった女性に裏切られ傷ついた若き医生と師の魂のふれあいを描く快作
去定がたびたび言葉にする
「悪いのはその人間ではなく貧困と無知、この世に悪人はいない」
自分の力ではどうしようもない辛い現実の中、必死に毎日を生きる人々への応援歌ともいえるでしょうか
そんな去定も全てを悟った立派な人間というわけではなく、養生所運営のため金持ちから多額の治療費をせしめるようなこともするし、奉行を脅迫するし、登の若さや純粋さを羨ましがっている部分もあり、彼もまた登と共に成長過程にあるのです
登の何十年後かが去定であることは間違いないでしょう
藤沢周平さんの獄医シリーズの主人公の名が登というのはこれからきていると聞いたような聞かないような?
若き医師の成長物語という点でも共通点は多いですね
若者の成長譚は読んでいて気持ちのよいものです
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