青来有一「夢の栓」
幻戯書房
2012年8月 第1刷発行
389頁
戦時中、南方のジャングルでひとりの日本人敗残兵がブラナ族と名乗る少数民族に助けられる
その部族の元で司祭のようなことをしていた日本兵・喜舟渡シゲゾウだったが望郷の念を抑えられず日本に戻ることを告げる
その折に残したのは、日本へ持っていくブラナ神像をいつの日か自分の子孫が必ず返しに来ることを約束した借用書だった
高台にある豪邸に暮らす喜舟渡シゲル
シゲゾウの曾孫にあたります
シゲゾウは終戦の2年後、故郷の土を踏み、海産物加工の会社を興し大成功を収めました
シゲルは豪邸に住んでいるというだけが理由と思われる中学の時のイジメが原因で不登校になり引き籠りの生活を送っています
ある日、彼の所に南方から来たと思われる一人の老人がやってきて、件の借用書を見せ「オムカエニ、マイリマシタ」と告げる
ブラナ神像はシゲルの家の仏間に大切の保管されていたもので、シゲゾウの旧仮名遣いの借用書を見せられたシゲルは家族の誰にも告げずブラナ神像を持って南方のジャングルに向かう
5つの中編の連作集になっています
それぞれ主人公や登場人物は異なりますが、共通するのは脆く壊れやすい人間関係の中で主人公が夢を見ていることと、それらの夢が実現するような気がする自然豊かな南の島々への憧憬を持っていること
夢には栓をしておかないと儚く消えてしまうのでしょうか
人生について、死について、考え尽くしたうえ辿り着くのは「宗教」または「祈り」
現代の人間ドラマを夢の世界と結びつけて、仏教、キリスト教、(架空の)ブラナ信仰などの問題を浮かび上がらせます
そこには問題解決も結論もありませんが
長崎という土地で戦争や原爆、信仰について、誠実に真面目に著し続けてきた著者の強い思いが伝わってくる一冊でした
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