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読書三昧の日々

白石一文「幻影の星」

2012/08/05
白石一文 4

文藝春秋社
20121月 第1刷発行
245
 
 
帯より
震災後の生と死を鋭く問う、白石一文の新たな傑作
 
 
主人公は東京で一人暮らしをしている男性
郷里・長崎の母から電話があり
かなりくだびれてはいるが、彼のネーム入りの青いレインコートが実家近くで見つかったから送る、という
そんなはずはない
自宅のクローゼットにまだ買ったばかりの新品のレインコートが吊るされている
届いたレインコートは確かに自分のもののようだが、ポケットに入っていたチョコレートは期間限定品で、まだ発売前のものだったし、SDカードの画像を読み込むと、そこには未来の日付があった
このレインコートは未来からやってきたのか?
 
もう一人の主人公は長崎に暮らす女性
かなり傷んだ状態の携帯が届けられる
ストラップから判断するに確かに自分の携帯だと思われるのだが、ちゃんと自分の携帯は持っている
全く同じ2台の携帯を並べて困惑するばかり
さらに保存されている画像を見ると、傷んだほうには見たこともない男性が写っている
どういうことなのか?
 
 
SFのような話はほんの入り口
わかりやすい話を糸口に、白石さんの死生観が語られます
過去、現在、未来
それらは全て幻影
目の前の華やぎも喧騒も、ほんの一瞬の光芒に過ぎない
それはまさにはかない幻影である
そして、その背後に横たわっているのは沈黙が支配する広大な死の世界
死こそがすべてなのだ
人は生きて生きて生きるのではなく、死んで死んで死ぬ
人は生きることを運命づけられた存在ではなく、死ぬことを運命づけられた存在なのだ
 
 
今、この地球上に生きている人間は100年後にはすべて死に絶えている
ある一人の人が将来死ぬ確率は100
 
そういったことを考えると、今生きていることの重みが増してきます
 
哲学的な内容と白石さんは切り離せませんが、「この世の全部を敵に回して」「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」と比較すればかなり読みやすいものになっています
震災経験後の日本人ならば読んでみてもよいのではないでしょうか
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Comments 4

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こに

No title

やっちいさん
「この世の全部を敵に回して」「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」と比べたら、初期の頃の作品に近い、ごくごく普通の小説だと思ったのですがどうでしょう?

2012/08/09 (Thu) 20:11

こに

No title

リトルムーンさん
「白石化」とはうまく表現しましたね~。
この人は何もかも否定してどうするつもりなのだろう、と思うのですがテレビなどで語る姿を見ると案外フツーだったりする不思議な作家さんですよね。
SFっぽい部分をSFとして読むのは白石好きとは言えない読者ではないかしら、とは私の個人的意見です。
是非、読んでみて!

2012/08/09 (Thu) 20:03

やっちい

No title

ワタシにとって、この本はかなり難解でしたが
(文章は読みやすいと思いましたケド)
白石さんの御本としては読みやすい方だったんですか。
そうなのか~。

2012/08/05 (Sun) 19:57

リトルムーン

No title

あっ、白石さんの本ですね!

最近、精神的に行き詰ったりして、なにもかもイヤになったりすると、自分の精神状態を「白石化」していると表現しています^^

白石さんが「とことん絶望していく文章」にどこか惹かれてしまうのが不思議なんです^^

面白そうな内容ですね!
まだ文庫にはなっていないのかなぁー。
読んでみたいです♪

2012/08/05 (Sun) 16:03